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午後の少女,FP 002
4 -婦人靴を履いた少女,
FP 001
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「時の初めへの旅」各シリーズの成り立ち
「現代の人間」シリーズ
このシリーズの原点は、私が創作活動を始めた青年時代に遡る。私の最初の
「芸術」写真は友人のエックハルト・マッヘンスのポートレートだが、これは私が少
年時代何年かを過ごし、第二の故郷ともいえるケルンの聖マウリティウス孤児院
で撮影された。マッヘンスと私は1956年に孤児院に隣接するコルピングハウス写
真クラブのメンバーとなり、入会直後から、完璧ではないが美的な魅力を内在す
る写真を撮ることができたと思う。この時代、私は若者らしくポートレートを撮ること
に熱中し、撮られる人間の単なる肉体という存在を超えたもの、個性であり、その
人の放つオーラや、たとえ好ましくない生活条件下にあっても人が失わない品格
を表現したかったのである。1981年にバイエルン・フェラインス銀行によって、ド
イツ18都市で開催された私の「この地球の人々」展の中心テーマとしたのも、「か
けがえのない」人間だったのである。
この巡回展以後はポートレートと取り組むことは稀になったが、1998年になって
改めてこのテーマに目を向けることになった。きっかけとなったのはアンドレアス・
グルスキーの作品で、彼の作品は個人を群衆の一部分として表現し、その群衆
の中で個人は全く意味を失ってしまうのである。これは私の試みとは対極にある
行き方である。その後何年もたってから私は散策する人々を撮影する事により、
グルスキーの方法を私の作品に反映させてみた。
「画像と記号」シリーズ
画像や記号を使わなかったら人類の発展は不可能だったろう。その代表格は
様々な文化が生み出した文字である。また誰もが理解できる記号で公開の場所
に描かれたり彫られたりしたものも、人間同士が理解するために役立った。例え
ばキリスト教を象徴する「魚」や、アナーキストを表す丸で囲んだ大文字のAがそ
のよい例であろう。このシリーズでは、ヨーロッパの街々で壁や塀に付けられた
様々な記号を撮影した。この時に、名も知らぬ人々が私達の注意を自分に向け
ようとして塀に描いた、アートといってよい変わった落書きも見つけた。そのような
「芸術的」といえる興味深い落書きを探すうちに、20世紀絵画でよく知られたパウ
ル・クレーや、バーネット・ニューマン、アントニー・タピエスやサイ・トンブリー等多
くの画家の手法を落書きの中に再発見することになった。また人間が自ら手を加
えずとも、時の経過や天候によって古い塀に生じた興味深い形跡を見つけること
が出来た。このシリーズから1990年にパリのフランス国立写真センターによって2
点が選ばれ、パレ・ド・トーキョー美術館で開催された“ O eilde la letter“展で展
示されることになった。