後に彼の写真のもとになった実際の風景を見る機会もあった。風景を撮影するこ
とは、私にとっては実は宗教的行為といってもよい。風景写真家は目の前に広が
る無限の世界の中から、自分にとって不可欠だと思われる一画を切り取る。この
行為によって新たな視野を定めるわけだが、その写真を見た人はそれを全体とし
てとらえる。新しい視野でとらえられた写真により、私たちは、過ぎ去った昔の世
界に思いをはせ、また調和のとれた宇宙の深さを感じる事が出来る。
「地球と人類の歴史」本写真集におけるコンセプト
写真集を作ってみたいと思ったのは、エルンスト・ハース[5]の作品を知ったこと
がきっかけであるが、私がこの写真集に与えた精神的方向性はハースのそれと
は違うものだった。「時の初めへの旅」という想像上の旅に構想を与えたのは旧
約聖書の創世記ではなく、地球と人間の発達史であった。さらに私は地球の時
間軸上に、現在の視点から見ると発達途上で重要な変化が起こった時代に軸を
据えた。「現代の人間」シリーズで過去に遡る旅を始め、途中2か所で立ち止まり
ながら、年代順に「時の初め」、太古の時代までたどりつく。「時の初め」シリーズ
3
「神々の故郷」シリーズ
このシリーズにはヨーロッパ石器時代の巨石モニュメントの写真が収められてい
る。アイルランドのキャロウモア巨石墓地にある有名な最古のストーンサークルが
一例だが、約8000年前のもので、成立年代が青銅器時代初期にまで遡るメンヒ
ル(立石)やドルメン(支石墓)も並んでいる。石器時代の記念物を撮影する際、私
には撮影対象と空、そして雲とのつながりを表現するという視点と、周りの風景と
のつながりを表現するというふたつの視点が重要だった。
石器時代の昔から人々はすでに、メンヒルを建てることで空に向けられた表象・
感情世界を表現し、また同時にドルメンに独特な広がりを与える天井石によっ
て、必然的にドルメンを周囲の風景にはめ込んでいたのである。私はこのシリー
ズを大判カメラより取り扱いが楽な中判カメラで撮影することに決めた。そのおか
げで撮影時に刻々と変わる雲の動きにも対応することができた。
「初めに時ありき」シリーズ
この写真シリーズは、空と、空と海が触れ合って魅力的な境界面を作っている水
平線、海で構成されている。この写真を見る人は、自然が太古の姿のままで、生
物が現われる以前の状態にあるという印象を受ける。水平線写真を始めた時か
らすでに、杉本博司のモノクロで、ミニマル・アート的な『海景』は知っていたし、
5 - „
野獣派“へのオマージュ,
F 109
6 -ボタンの目,F 120